GPSを利用した容疑者の監視について(合衆国最高裁)

アメリカ合衆国最高裁は、2012年1月23日、警察が令状なく容疑者の自動車にGPS発信器を取り付けた行為を合衆国憲法修正4条に違反すると判断した。(合衆国憲法修正4条は、日本国憲法35条に相当し、不合理な捜索の禁止と捜索押収に関する令状主義とを規定している。)

麻薬取引の疑いのあるナイトクラブのオーナーを、FBIとコロンビア特別区の警察が合同で監視活動を行っていた。監視は、黙視、監視カメラの設置、携帯電話の通信傍受など様々な手段で行われていたが、電子装置の使用については、裁判所により、10日間の使用を許されていた。令状で許可された期間が過ぎてから、警察は、公共駐車場に停めてあった自動車の車台にGPS発信器を取り付け、その後4週間にわたり公道上の移動を監視していたというものである。

携帯電話のGPS機能を利用して、容疑者の所在確認を行う手法は、わが国でも採用されている。昨年11月、総務省が「電気通信事業における個人情報保護に関するガイドライン」を改正し、令状によること、位置情報の取得を利用者(容疑者側)に通知することを条件に、このような捜査手法を認めている。(ガイドライン第26条)

ただ、この判決で違憲とされたのは、携帯電話等の通信手段に介入して位置情報を取得する場合ではなく、物理的にGPS装置を容疑者の自動車にとりつけて追跡するというものである。

この判決は、合衆国憲法修正4条にいう「捜索」につき、従来、家宅等への侵入を伴う場合に令状が必要であると解されてきたが、通信傍受など家宅等への侵入を伴わない場合に令状が必要かが問題となっていた。公衆電話ボックス(公共の場所)に通信傍受装置を装着して、通信を傍受するのに令状が必要かが争われた事件の判決 (Katz v. United States, 389 U.S.347 (1967).)以降、修正4条は「場所を保護しているのではなく、人を保護している」ことが強調され、「人のプライバシーについての合理的な期待」を侵害する場合には、令状が必要であるというのがアメリカの判例となった。

合衆国憲法修正4条「不合理な捜索押収に対し、身体、住居、書類及び所有物の安全を保障される人民の権利は、これを侵害してはならない。令状は、・・・相当の理由に基づいてのみ発せられ、かつ、捜索されるべき場所及び逮捕押収されるべき人又は物を特定的に記載することを要する」

日本国憲法35条1項「何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、・・・正当な理由に基づいて発せられ且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。」

ところが、公の場所にある自動車は、その車内を捜索するのではなく、移動状況を確認する限りは、プライバシー侵害とはいえない。そこで、この判決は、個人の自動車へGPS装置を設置する行為を、「私有物への物理的な侵入」という、昔からの侵害態様にあたると判断して、令状を必要とすると理解したものである。法廷意見を書いたスカリア裁判官は、公道上にある自動車にGPS装置を装着する行為は、「憲法制定者が220年前に禁止しようとした行為に相当する」と述べている。なお、スカリア裁判官は、GPS装置によって監視した期間の長短は問題ではないとも述べている。

(追記 2012/01/30: NY Timesによると、車台下に取り付けるGPS発信装置は、タバコのパッケージのサイズの物が、300ドルで一般にも販売されていて、合法的な目的のほか、電子的なストーキングなど違法な用途にも使用されているという。特に、自動車の所有者が自己の車に同装置を取り付け、配偶者、未成年の子、痴呆の疑いのある高齢者の行動を監視している場合には、現行法上違法とはいえないという見方が有力なようだ。ただ、人はペットではないので、たとえ家族であっても、許諾なく見張られることは問題であるという見解がある。)

*(追記)
2012年8月14日、アメリカの第6巡回区控訴裁判所は、警察が、令状によらずに、容疑者の携帯電話から発するGPSの信号を追跡して位置情報を確認することは、修正4条に違反しないと判断した。上記のJones事件とは異なり、物理的な侵入を伴っていないこと及び位置情報の利用を本人が許諾している点が、GPSによる追跡がプライバシーの合理的な期待を裏切るものではないという結論の理由としてあげられている。この判決によれば、GPS機能のついた携帯電話を所持し、位置情報をオンに設定すれば、いつでも無令状で警察から追跡されうるということになるが、人や物が発する赤外線を利用した捜査などに一定の限界があるとした最高裁判決と矛盾するのではないかといった批判も強い。いずれにせよ、GPS捜査の可否について、Jones判決が積み残した課題が多いことを示している。

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